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爆裂音楽名曲集


昔好きだったサイトに、爆裂する音楽をひたすら紹介する「爆裂音楽」というサイトがありました。オマージュの意を込めて爆裂音楽を紹介してみたいと思います。


殷承宗:黄河鋼琴協奏曲

爆裂度★★★★☆
精神度★★☆☆☆


 殷承宗のピアノ協奏曲「黄河」。いやー実に健全、ラジオ体操みたいなメロディ、かつ超絶技巧。これはもっと評価されて良いですよ。こんな形で異国情緒を感じさせるのはなかなか無い。


第1楽章 黄河船夫曲




第2楽章 黄河頌



第3楽章 黄河憤



第4楽章 保衛黄河




 この健全なメロディ!訳も無くグリコのマークが脳裏によぎります。ラストは若かりし毛沢東のアップ。うーん共産主義。



シェーンベルク:ワルシャワの生き残り

爆裂度★★★☆☆
精神度★★★★☆


 ヨーゼフ・マティアス・ハウアーが考案した12音音楽を発展させたことで有名なシェーンベルク。ユダヤ人であったシェーンベルクは、第二次世界大戦中にナチスの迫害から逃れるために、アメリカに亡命しています。この「ワルシャワの生き残り」は12音音楽の手法を用いて、ナレーション付きでナチスの収容所の恐怖を描写しています。8分ほどの小品ながらも、圧倒的な迫力を備えています。
 英語のナレーションに、ドイツ語の将校の台詞が入り、最後にヘブライ語で歪められた賛歌が歌われます。ホラー映画のような音響…12音音楽の“無慈悲性”を巧みに利用しています。最後の賛歌は心底恐ろしい。なおナレーションは自由に聴こえますが、全て楽譜に音価が指定されています。




テキストは以下。日本語訳はこちらのサイトをご覧ください。

I cannot remember everything.
I must have been unconscious most of the time.
I remember only the grandiose moment
when they all started to sing, as if prearranged,
the old prayer they had neglected for so many years
the forgotten creed!
But I have no recollection how I got underground
to live in the sewers of Warsaw for so long a time.


The day began as usual:
reveille when it still was dark.
Get out! - Whether you slept
or whether worries kept you awake the whole night.
You had separated from your children,
from your wife, from your parents;
you don't know what happened to them - how could you sleep?
The trumpets again - Get out!
The sergeant will be furious!
They came out; some very slow;
the old ones, the sick ones;
some with nervous agility.
They fear the sergeant.
They hurry as much as they can.
In vain! Much too much noise,
much too much commotion - and not fast enough!
The Feldwebel shouts
"Achtung! Stillstanden!
Na wird's mal? Oder soll ich mit dem
Gewehrkolben nachhelfen?
Na jutt; wenn ihr's durchaus haben wollt!"
The sergeant and his subordinates
hit everybody: young or old,
quiet or nervous, guilty or innocent.
It was painful to hear them groaning
and moaning. I heard it though
I had been hit very hard,
so hard that I could not help
falling down. We all on the ground,
who could not stand up were then
beaten over the head.


I must have been unconscious.
The next thing I knew was a soldier
saying: "They are all dead",
whereupon the sergeant ordered
to do away with us.
There I lay aside half-conscious.
It had become very still - fear and pain.


Then I heard the sergeant shouting: "Abzählen!"
They started slowly and irregularly:
one, two, three, four - "Achtung!"
the sergeant shouted again, "Rascher!"
"Nochmal von vorn anfangen!
In einer Minute will ich wissen,
wieviele ich zur Gaskammer abliefere!
Abzählen!".
Then began again, first slowly: one,
two, three, four, became faster
and faster, so fast that it
finally sounded like a stampede
of wild horses and all of a sudden,
in the middle of it
they began singing the Shema Ysroël.


Shema Ysroël
Adonoi, Elohenu,
Adonoi echod;
Vehavto et Adonoi elohecho
bechol levovcho,
uvchol nafshecho
Uvchol meaudecho.
Vehoyù had e vorim hoéleh
asher onochi metsavacho
hajom al levovechò
veshinantòm levonechò
vedibarto bom
beschitechò, bevetecho
uv'lechetecho vadérech
uvshochbecho
evkumechò.


 12音音楽のシリアスな作風も良いですが、やっぱり「浄夜」などの後期ロマンの作品が魅力的。


チャイコフスキー:交響曲第4番

爆裂度★★★☆☆
精神度★☆☆☆☆


 言わずもがなの名曲。チャイコフスキーの交響曲はここから格段に面白くなっていきますね。この曲に関しては作者自身の詳解があるのでそれを引用させていただきます。メック夫人に宛てた手紙です。


第1楽章

 序奏はこの交響曲全体の中核、精髄、主想です。これは「運命」です。すなわち幸福への追求が目的をつらぬくことを妨げ、平和と慰安が全うされないことや、空にはいつも雲があることを、嫉妬深く主張している宿命的な力です。……。この力は圧倒的で不敗のものです。ですからこれに服従して、ひそかに不運をかこつよりしかたがありません。
(第1主題)絶望は激しくなります。逃避して夢に浸るのがよいでしょう。(第2主題)なんという嬉しさでしょう。甘いやわらかい夢が私を抱きます。明るい世界が私を呼びます。魂は夢の中にひたって憂愁と不快は忘れられます。これが幸福です。しかし夢でしかありません。運命はわれわれを残酷に呼びさまします。(楽章の最後で再び運命の動機が戻ってきます)

第2楽章

 第2楽章は悲哀の他の一面を示します。ここに表されるのは、仕事に疲れ果てた者が、夜半ただひとり家の中に座っているとき彼を包む憂鬱な感情です。読もうと思って持ち出した本は彼の手からすべり落ちて、多くの思い出が湧いてきます。こんなにも多くのいろいろなことが、みんな過ぎてしまった、去ってしまったというのは、なんという悲しさでしょう。それでも昔を思うのは楽しいことです。私たちは過去を嘆き懐かしみますが、新しい生き方を始めるだけの勇気も意思もありません。私たちは生活に疲れ果てたのです。

第3楽章

 第3楽章には、これといってはっきりした情緒も確定的な表出もありません。ここにあるのは気紛れな唐草模様です。われわれが酒を飲んでいささか酩酊したときに脳裏にすべりこんでくるぼんやりした姿です。その気分は陽気になったり悲嘆に満ちたりくるくると変わります。別にとりとめて何のことも考えているのではなく、空想を勝手気ままに走らせると、すばらしい線の交錯による画面が楽しめます。たちまちこの空想のなかに、酔っ払いの農民と泥臭い歌との画面が飛び込んできます。遠くから軍楽隊の奏楽して通る響きが聞こえます。これらはみんな、眠る人の頭の中を行き交うばらばらな絵なのです。現実とはなんの関係もありません。それらは訳のわからぬ混乱したデタラメです。

第4楽章

(*吹奏楽編曲です。…聴かない方が良いかも知れません)


 第4楽章。あなたが自分自身のなかに歓喜を見出せなかったら、あたりを見回すがよい。人々の中に入って行くがよい。人々がどんなに生を楽しみ、歓楽に身を打ち込むかを見るがよい。民衆の祭の日の描写。人々の幸福の姿を見て、己れを忘れるか忘れないかのとき、不敗の運命は再びわれわれの前に現われてその存在を思い起こさせる。人の子らは、われわれに関心を持たない。彼らはわれわれを顧みもせず、またわれわれがさびしく悲しいのを見るために足を止めようともしない。なんと彼らは愉快そうで嬉しそうであることか。彼らは無邪気で単純なのだ。それでもあなたは「世は悲哀に沈んでいる」と言うだろうか。幸福は、単純素朴な幸福は、なお、存在する。人々の幸福を喜びなさい。そうすればあなたはなお生きて行かれる。



チャイコは個人的にあまり聴かないのですが、4楽章の狂喜乱舞は帰宅時などに良く聴きます。テンション上がります。


チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番

爆裂度★★★★★
精神度★☆☆☆☆


 これはロックです。終楽章の分かりやすい高揚はなかなか類を見ない。加えてこの曲は楽想がピカ一。個人的にチャイコ作品ではこれがベストです。
 ニコライ・ルービンシュタインに捧げるはずでしたが「こんなん出来ねーよ」と非難され、代わりにタネイエフに献呈したという経緯を持つ曲。ピアノはプロでも精確に弾きこなすのは難しい。

第1楽章

 とかく有名な序奏主題。これだけの名旋律を一度しか使わないのは凄い決断だと思います。

第2楽章

 やや地味な楽章。中盤の奔放な噴水のような音形は現代的。伴奏部分は無調的な感じすらあります。

第3楽章

 いやーやっぱりこの楽章でしょう。これぞロック。終盤、超絶技巧の“見せ場”から、主題が全合奏で回帰する箇所は唯一無二の怒涛の音楽的高揚。この瞬間のためにあるようなものです。

これは駆け抜けるように演奏して欲しい。下の動画はアルゲリッチの演奏。冒頭から「遅いわよ!」と指揮者のテンポを無視して突っ走る姿はロック。ミスタッチもオーケストラの伴奏も指揮者もなんのその、猪突猛進!いやー凄い爆裂!終わる前に拍手してしまうのも分かります。




日本が誇るスーパープレイヤー、上原彩子の演奏。速い速い巧い巧い!



若かりしキーシンとカラヤンの演奏。
http://www.youtube.com/watch?v=X7VYDxpkwng


プロコフィエフ:ピアノソナタ第7番「戦争ソナタ」

爆裂度★★★★★
精神度★★★★☆


 爆裂ピアノソナタ。ピアノソナタ第6,7,8番は第二次世界大戦中に作られたことから「戦争ソナタ」と呼ばれます。どれも歴史的な傑作ですが、この第7番は第3楽章で有名。ほとんど“見世物”的な面白さすら備えています。

第1楽章



 冒頭からプロコフィエフ節全開。ここまで「変な」音楽も珍しい。しかし、何故か旋律が耳に残るのがプロコ節の魅力です。子供の頃、こんな出鱈目な歌を歌った記憶があります。

第2楽章



 一転してくつろぐような、湿度感のある気だるい主題。でもなんか「変」。

第3楽章



 7/8拍子という変拍子で繰り広げられる、爆裂ジェットコースター音楽。この楽章がために有名な曲でもあります。



アルゲリッチの演奏。…開いた口がふさがらない。




“ものごっついピアニスト”シプリアン・カツァリスの演奏。高速再生ではありません。ここまで速いと何が何やら…。


 


ジョン・ロード:グループとオーケストラのための協奏曲

爆裂度★☆☆☆☆
精神度☆☆☆☆☆

 Deep Purpleのキーボード奏者、ジョン・ロードによって作曲された「グループとオーケストラのための協奏曲」。クラシック界、ロック界にさまよう珍曲。1969年の作品。
 当時はプログレ勢を中心に、ロックにオーケストラを取り入れることが一種の流行でした。ムーディー・ブルースの「Days Of Future Passed(1967)」を皮切りに、キング・クリムゾン「クリムゾン・キングの宮殿(1969)」、ピンク・フロイド「原子心母(1970)」、ニュー・トロルス「コンチェルト・グロッソ1」、ルネッサンス「千夜一夜物語(1975)」などなどなど、管弦楽のエッセンスを取り入れた名盤は数多く存在します。その中でもこの「グループとオーケストラのための協奏曲」は、歴史に埋もれた特に知名度の低いもの。プログレファンも聴かないし、ロックファンも聴かないし、クラシックファンも聴かないという一枚。ディープ・アープルファンにとってもちょっとした黒歴史なんでしょう。

構成は以下のような本格的なもの。45分超の大曲。



 ロックにクラシックを取り入れた、というよりはロックとクラシックをコラージュさせたような作風。もう何の音楽、誰の音楽聴いてるんだか分からない瞬間がたくさん。


第1楽章。
 弦のカーテンの上に、線的な木管で主題が歌われる。壮大な序奏が終わり、やや軽薄な舞曲風の音楽へ移ると、ロックバンドが“介入”してきます。


ギターソロが終わると突如管弦楽が“介入”。インタープレイ。シンバルの一撃で管弦楽が支配します。木管のメロディは現代的で面白い。木管主題を引き継ぎ、ロックバンドへ。オルガンソロ中心。作曲者だけあってジョン・ロードが大活躍。
 オルガンに弦楽が重なり、トゥッティでロックのリズムを刻印。ギターソロのモノローグを挟み、ティンパニのトレモロが音楽が高潮へと導く。残念ながら映像はここで切れています。


JAZZクラリネットっぽいソロから。バンドとオーケストラの予定調和のインタープレイ。強烈なリズムを叩き込み、第1楽章を終える。
第2楽章アンダンテは妖しい輝きを放ちながら始まります。葬送風の音楽。オーケストレーションのセンス良い。だんだんと音楽が情感を帯びていくと、音楽は歌唱的に。


なんとここでヴォーカル。ハモンドオルガンが美しい中間部。オーケストラによって主題が雄大に展開される。ティンパニのトレモロの上に木管とハモンドオルガンが乗る。


ハモンドが主導し、再びロック・バラード調の音楽へ。ヴォーカルがからむ辺りからの展開は白眉。実に美しい。ハモンドオルガンのカデンツァ。アルヴォ・ペルト風の(!)静謐で希薄な弦楽。


第2楽章終結部。音楽は静かに停滞し、消えていく。
第3楽章冒頭、躍動感溢れるリズム(難しそう)と騎行のホルン。ティンパニ!シロフォン!スネア!ジョン・ロードは打楽器好きみたいですね。リッチーブラックモアのソロも良い。深く考えずに楽しめます。


ギターに続いてジョン・ロード。しかし裏拍系・連符系の嫌らしいリズムが多いですね。中盤のドラムソロは全曲を通して抜群の異化効果。ここら辺もうロックだからクラシックだか何を聴いているか分からなくなります。どっちでもないんですが。


木管・弦に表せる高速パッセージが難しそう。オーケストラが高潮すると、待ってましたとばかりにバンドが介入し、全合奏で終曲。最後はちょっと物足りないですね。



これぞ珍曲。ある意味爆裂でしょう。名曲では無いのは確実ですが、うーんどうしても嫌いとは言い切れない。珍奇な歴史の遺産。若気の至りとも。


ショスタコーヴィチ:交響曲第5番

爆裂度★★★★★
精神度★☆☆☆☆

 言わずと知れたショスタコーヴィチの代表作。「ショス5」なんて呼ばれますが個人的には「タコ5」と呼びたい。特に意味は無いですが。語感として。
 結尾に関しては「第5交響曲で扱われている主題は強制された歓喜なのだ」とショスタコーヴィチ自身が語ったとされることがありますが、出典のソロモン・ヴォルコフ著「ショスタコーヴィチの証言」自体が偽書である、という説も根強く、終わり方に関しては今でも議論は続いています。
 という歴史的な話はさておいて、形式的に見ればベートーヴェン以来の「苦悩を突き抜けて歓喜へ」風の正統派交響曲であることは間違いないでしょう。非常に分かりやすい内容ですので、チャイ5と並んでクラシック入門に相応しい名曲です。

第1楽章

映像は途中から解説に変わってしまいますが…。展開部の打楽器的なピアノはバルトークやプロコフィエフの影響でしょうか。



第2楽章

ショスタコ節全開。終楽章に並ぶ魅力的な楽章です。ネジの外れたヴァイオリンが素晴らしい。こういった諧謔さ、“変さ”はプロコ、カバレフスキーなど旧ソ連の作曲家に共通する作風ですね。



第3楽章

 映像は抜粋。弦楽のみによる緩叙楽章。チェレスタが印象的な結尾は、ショスタコ全作品中でも屈指の美しさ。


第4楽章

 待ってました!やっぱりこの楽章でしょう。交響曲の終楽章としてここまで相応しいものも珍しい。第5番を名作たらしめている楽章。
なおこの楽章のテンポに関しては初版に誤植があり作曲者が真にどんなテンポを意図していたかは大いなる謎です。詳しくはWikipedia参照。しかしながら、こういった解釈の多様性は転じてこの曲の魅力を増大させているのも事実。実に良いとこで誤植してくれたものです。

(バーンスタイン@NYPO)


(ムラヴィンスキー@レニングラード・フィル)



おまけのマーチング編曲。素晴らしい!



バーンスタイン@NYPO 1979 東京文化会館Live

定番のバンスタ1979年東京ライブ盤。文句なし。必聴。


ムラヴィンスキー@レニングラードPO 1973 東京文化会館Live

バンスタ盤に負けず劣らず。いやー凄すぎる。手に汗握る名演。タコ5の名録音2枚が共に日本で行われたってのが嬉しいですね。


カプースチン:トッカータ作品8

爆裂度★★★★★
精神度★☆☆☆☆


 爆裂ピアノ音楽作曲家、カプースチンの傑作。カプースチンはJAZZの書法を取り入れた作風で有名。何が凄いってこれアドリブに見えて、しっかり楽譜になっているのが凄いんです。
 この「トッカータ」は3分弱の曲ですが、いやもー凄すぎる。ガーシュウィンなんか赤子同然!他には「8つのコンサート用エチュード」なんかも有名。YouTubeで「Kapustin」検索すればヒットするはずです。



ジェフスキ:ウィンスボロ綿工場のブルース

爆裂度★★★★☆
精神度★★★★☆


 ジェフスキは「不屈の民変奏曲」(紹介ページへ)も有名かつ爆裂ですが、こちらはさらに爆裂。呪詛めいたクラスターから始まり、無残に変形されたブルースが一瞬聴こえると、鍵盤をフルに使った爆裂カオスへ。一旦落ち着くと、JAZZYにブルースが始まります。不穏に楽しくブルースが続けられる…と思った矢先に腕全体を使って突然のクラスター。刃物のように高音をぎらつかせ、終曲。ぶっ飛んでます。
 この荒唐無稽な構成を理解するためには、作品背景を知ることが不可欠です。ジェフスキときてピンと来る方も多いと思いますが、「不屈の民」がチリの革命歌であるように、やはりこの曲も政治的な背景があります。なんでも「ウィンスボロ綿工場のブルース」は、南部アメリカ、1934年の大農民ストライキの際に歌われたブルースだそうです。怒り狂う農民の姿を想像してお聴きください。ほとんど悪魔のような農民が脳裏に浮かんでしまうでしょう。



黛敏郎:涅槃交響曲

爆裂度★★★★★
精神度★★★★☆


 これは音源がないのが非常に残念…!日本を代表する作曲家の一人、黛敏郎の傑作交響曲(Nirvana Symphony)です。全6楽章で、奇数楽章がオーケストラで梵鐘の音を模した「カンパノロジー」、偶数楽章がオーケストラと男声合唱による声明(しょうみょう)、というとんでもない構成。西洋音楽の範疇を見事にぶち破った歴史的傑作。音響的にも先進的で、鐘の音をスペクトル分析する、という斬新な手法はミュライユ「ゴンドワナ」に先駆けるものです。

 第一楽章 カンパノロジー1
 第二楽章 首楞厳神咒(しゅれんねんじんしゅ)
 第三楽章 カンパノロジー2
 第四楽章 摩訶梵(まかぼん)
 第五楽章 カンパノロジー3
 第六楽章 フィナーレ

 となっています。演奏時間は37分ほど。

 圧巻は第二楽章「首楞厳神咒」。冗談抜きでお経唱えます。「南無楞厳会上(んな~~~ぁむ~~~れんね~~~ん、ぅい~じょ~~~おぉ~~~ぉぉ~)」というソロ読経に始まり、「楞厳会上諸菩薩(れ~~~んね~~ん うぃ~~~じょ~~~~ぉぉぉ)」という合唱読経で答えます。以降、オーケストラによる不吉な伴奏で、読経がひたすら続きます。
 中間部からはソロ読経と合唱読経の掛け合いが始まります。どろどろとした不気味な読経の応酬が極まると、ついにシャウト(喝!)。オーケストラが徐々に参入していき、ぎらついたカオスの様相を呈する。終盤はほとんど狂気。怪獣映画のBGMと言われてもそれはそれで納得が行きます。
 爆裂音楽たらしめるのは、第五楽章「カンパノロジー3」。オーケストラが鐘の音を模した強奏を繰り返し、いかにも黛っぽいピアノが入ると、鐘を模した合唱まで参加します。中間に至り音楽は静まり、ぼうぼうとした響きが残り、消え行くと、ここで真の爆裂。ショスタコーヴィチのネジを全部外して解体して適当にくっつけたような旋律が上乗せされます。裏では勿論、前半の爆裂が執拗に鳴らされます。
 フィナーレは「涅槃」の名に相応しい、無常感の漂う神々しいもの。ゴング、鐘の乱打、金管、シンバル、合唱が炸裂し、残響の中無常感を漂わせ終曲。ぶっ飛んでます。

 大変詳しい譜例・歌詞付きの解説がネットにあるので是非ごらんください。

オススメは岩城宏之@東京都交響楽団の盤。新しい録音を日々切望しています。


プロコフィエフ:交響曲第5番

爆裂度★★★☆☆
精神度★★★★☆





 爆裂作曲家&ヘンテコ旋律作曲家として(私の中で)名高いプロコフィエフの傑作交響曲。


第一楽章 - Andante

 柔らかで豊穣な第一主題。この旋律が歌い継がれていきます。裏声が出ちゃったかのような、上の音への不自然なまでの跳躍はプロコフィエフ音楽の特徴です。オーボエ・フルートで始まる主題が第二主題。優雅に空を飛んでいるような流麗な主題です。第二主題部後半あたりのヘンテコな旋律の運びはいかにもプロコフィエフ的。中間部、危機的な雰囲気を帯びた直後の第二主題のなんと伸びやかなこと。そして終盤部は全合奏の大爆裂、ベースドラム・ティンパニ・ゴング・シンバル・トライアングル・スネアドラムが雪崩のように畳み掛ける!打楽器好き垂涎。
 プロコフィエフの音楽を聴いていて感じるのは、その“歌謡性”。一聴するとほとんど滅茶苦茶な旋律に聴こえますが、何故か耳に残るし歌いやすい。やはり根底にはチャイコフスキーやボロディンのような、ロシア民謡のエッセンスがあるのでしょう。ここら辺は個人的に、フランスのロックバンド、MAGMAの荒唐無稽な旋律と近い魅力を感じます。

第二楽章 - Allegro marcato

 テンポの速い、爽快感のあるスケルツォ楽章。プロコフィエフのリズムセンスの良さが顕著に現われている楽章でしょう。ウッドブロックやタンバリンの使い方は、メシアン「トゥーランガリーラ交響曲」に先駆けるものがあります。

第三楽章 - Adagio

 アダージョ楽章。退廃的で、ぎらつく色彩を持った楽章。廃墟のようであり、宇宙のようでもある、実に不思議な音楽。プロコフィエフは旋律の色彩感にも優れた作曲家です。その点でもメシアンと似ていますね。

第四楽章 - Allegro giocoso

 待ってましたのフィナーレ。木管楽器の呪文に導かれ、ここで第一楽章の第一主題が回帰します。チェロがリズミカルな音形を出すと、人を食ったようなクラリネットの旋律(第一主題)が現われ、狂ったようなヴァイオリンの高速パッセージが介入します。うーん実にぶっ飛んだセンスです。この箇所は難易度が高く、プロオケのCDでもテンポが崩れている演奏は多いです。
 テンポが落ちて、低弦に第二主題が出るあたりからが爆裂の兆し。フーガ風に高まっていくと、ヴァイオリンの高速パッセージが乱入し、再びスケルツォになります。狂乱のテンポで音楽が高められると、低音楽器に第二主題が出るも、高音楽器・打楽器の強奏で無残に中断されてしまう。この箇所は非常に特徴的です。ここで第二主題が誇らしく響いてくれれば、それは音楽的な解決となりカタルシスを得るのですが、あえてプロコフィエフはここで主題の発展を中断するのです。そしてそれは逆説的に、予想外の快感を聴く者に与えます。「主題を高めていく」という従来の交響曲の語法を打ち破る、とても斬新な手法です。 


 プロコフィエフの異才が存分に発揮された文句なしの傑作です。推薦盤はゲルギエフ盤。快活で爆裂な演奏です。


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