クラシック入門夢十夜 第二夜~どこかで聴いたあのメロディ


 第二夜では誰もが知っているであろう、有名クラシックをその魅力とともにご紹介。



ベートーヴェン:交響曲第5番 第1楽章
 「運命」の名で知られている、“第九”についで有名なベートーヴェンの交響曲第5番。これを聴いたことが無い人はいないでしょう。まぁどうぞ「運命ぐらい知ってるよ」と言わずに、ここで「運命」を手がかりにクラシック鑑賞の作法を一つお教えしましょう。
 さて、聴きなれないと気付かないのですが、この曲の素晴らしさは冒頭の4つの音が見事に発展していく点にあります。良く聴けば、ほとんど全ての音が「タタタターン」という材料から出来ていることに気がつくでしょう。
 少々難しい話になりますが、クラシック音楽においては(特に交響曲では)「いかに発展するか」が重要な問題とされます。例えばこの「運命」は、最初に衝撃的な短い“材料”(専門用語で動機[motive]と言います)が提示され、それが次々と複雑に、技巧的に発展していきます。交響曲全体を通しても、まずダダダダーンと悲劇的に始まり、途中経過を挟み、最後にハッピーエンド(「暗から明へ」)という劇的で理想的な形式が貫かれています。交響曲は一種の物語ですから、それをいかに発展させ、解決させるかということは、小説や映画における構成・プロットと同様に重要なことなのです。
 この曲の、またベートーヴェンの評価の高さはそういった「形式美」にあります。クラシック音楽の魅力は旋律そのものだけではなく、その構成や、発展していくさまにもあるのです。
 もっともそう言った構成・発展の美しさは音楽を聴きなれて初めて気付くものです。まだまだ聴きなれないうちは、形式美はさておき、旋律美を純粋に楽しむのが良いでしょう。幸せなことに、名曲とされる音楽はどちらの作法でも楽しめるように作られているのですから。






パッヘルベル:カノン
 パッヘルベル(1653-1706)のカノン、卒業式で必ず流れますね。聴いたことのない方はいないでしょう。
 カノンとは「かえるのうたが~かえるのうたが~きこえてくるよ~きこえてくるよ~」のように、同じメロディが様々に絡み合う技法(輪唱)のことを指します。注意して聴くと同じ旋律材料が使われていることに気付くと思います。着実に植物がツタを伸ばし育っていくように、刻々と変遷するメロディの文様を楽しみましょう。




 ここら辺で耳休めにロックバージョンをどうぞ。こういった演奏はちょっと邪道に思えますが、何のことはありません、「編曲」という作業はクラシックにおいてとても一般的です。編曲を是としないクラシック愛好家もたまにいますが、私個人的には、編曲は原作の魅力をさらに膨らませる素晴らしい手段だと思っています。







ムソルグスキー:展覧会の絵
 編曲の話が出たところで次は「展覧会の絵」。これもご存知でしょう。この曲はムソルグスキーが作った“オーケストラ曲”だと思っている方も多いのですが、実はこれはラヴェルによるオーケストラ編曲で、ムソルグスキーの作曲した原曲は、ピアノ独奏の曲なんです。
 1つ目の動画がラヴェルの編曲、2つ目の動画がムソルグスキーの原曲です。さぁ聞き比べた時にどちらが好きかと言えば、やっぱりオーケストラの方が聴いていて楽しいし、どちらかといえば編曲版の方が好きなのが普通だと思います。
 ここら辺が編曲の複雑なところで、ムソルグスキーの原曲を愛する人から言わせれば、ラヴェルの編曲はどこか許せなかったりするんですね。パクりじゃないか、原曲のイメージからかけ離れすぎだ、と。これって非常に良く分かることで、私なんかも平井堅がイーグルスの「ならずもの(Desperado)」をカヴァーした時に、なんとも言えない不快感を感じたものです。またそれがなまじ売れるものだから…。
 という事情はあるものの、編曲は作品の魅力を広げる手段であることには間違いありません。たくさんのバージョンがあるってことは、単純にそれだけ楽しむべきものが多いってことですから。この「展覧会の絵」はEL&Pのロック・アレンジ山下和仁のギター独奏編曲オルガン編曲JAZZ編曲などなど、多数のアレンジが存在することでも有名。様々な編曲を楽しむことが出来るのもクラシックの魅力の一つです。


オーケストラ演奏



ピアノ独奏






バッハ:トッカータとフーガニ短調
 「ティロリー 鼻から牛乳~」という嘉門達夫の替え歌で誰もが知ってるバッハの「トッカータとフーガ」。「トッカータ」とは同音連打を含む超絶技巧を指し、「フーガ」は「カノン」をより自由に発展させたものを指します。
 バッハのオルガン曲の魅力は建築的なまでの美しさ。演奏者には厳格な技術が要求され、ご覧のように両手両足を使って大量の鍵盤を操らなくてはなりません。演奏はカール・リヒター。彼の指揮した同じくバッハの3時間に及ぶ超大作「マタイ受難曲」は歴史的な名盤とされています。「マタイ」はバッハの最高傑作とされています。キリスト教の知識も要求される、入門者にとっては敷居の高い作品ですが、身震いするほど素晴らしい作品なので是非ともいつの日か挑戦してみてください。






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