クラシックオタクが選ぶ・吹奏楽4つの名曲



 私自身吹奏楽を10年以上やってきましたが、まぁ正直なところ、歴史に残るような管弦楽や室内楽の名曲と比較すると、POPSまがいの軽薄な作品が多いのが現状。演奏する分には楽しくていいのですが、それをプライベートでiPodに入れて聴こうということはまずありません。
 とはいえ稀に素晴らしい作品があるのも事実。このページではクラシックオタクを自称する私hayatoが選んだ吹奏楽の名曲を紹介します。

・何故駄曲が多い? ―吹奏楽の発展のために

 曲を紹介する前に、何故吹奏楽作品はダメなのか、そして吹奏楽はどうあるべきなのか、ということについて触れたいと思います。興味の無い方は先へどうぞ。
 一番の問題点は、吹奏楽自体がアマチュア向けであることなんでしょう。つまり、有能な作曲者がどれだけ高度な作品を作ろうとも、演奏者側がそれを受け入れない、という構図が厳然と存在するのです。作曲家も商売ですから、“売れる”作品を作るのは当然。そしてこの場合“売れる曲”というのは、多くの場合、陳腐な構成とメロディで作られた、アマチュアが無理なく演奏できる軽薄な作品になってしまうのです。
 アマチュア向けの作品は演奏が容易で楽しいけれども、やはり代替性が高く、何度も聴こう・何度も演奏しようという気にはさせられません。現状の吹奏楽は、とりあえず簡単で、客受け・団員受けが良さそうな曲を演奏しているだけで、究極的にはその曲じゃなくても良い(代替性が高い)わけです。簡単で客・団員受けが良い曲を演奏する、という態度は短期的に見れば良いことずくめですが、吹奏楽の発展には負の作用を与えます。作品の購入者であるアマチュア楽団がもっともっと意識を高め、作曲者が「吹奏楽でいっちょ面白い曲を書いてやるか!」と奮起するような環境を生み出すことが、吹奏楽が芸術的に成功するためには必要なことなのでしょう。
 二点目としては、編成自体の問題があるでしょう。編成が抱える問題点はいわゆる「オケ編(オーケストラ作品を吹奏楽用に編曲した作品)」を演奏する際に露呈してしまいます。レスピーギの諸作や、ヤナーチェク「シンフォニエッタ」など、元から管楽器が活躍する曲を吹奏楽に編曲するならまだしも、「アルプス交響曲」や「変奏曲『孔雀』」を吹奏楽に編曲するのは、やはり無理があります。勿論、新たな創造である「編曲」それ自体を否定する訳ではありません。編曲作品を演奏することによって、吹奏楽の編成の貧弱さ・無駄の多さが分かってしまう、ということをここでは指摘したいのです。
 が、大量の管楽器を使う吹奏楽でしか出せない音色があることも確かです。後に紹介するネリベルや長生淳の作品は、吹奏楽の編成の特殊さを、見事な作曲技法で高度に調和させています。演奏者にとってオーケストラ編曲作品が魅力的なのは良く分かりますが、吹奏楽の成長のためには、吹奏楽でしか出せない音を出せる作品を演奏するべきなのでしょう。
 無論、私は吹奏楽で育ってきた人間ですから、吹奏楽を否定するつもりは毛頭ありません。それどころか吹奏楽という存在自体はとても好きだし、肯定的に捉えています。しかし、吹奏楽作品が教育用音楽、社交用音楽の枠を超えて、歴史に残るような芸術音楽になるためには、まだまだ状況の改善が必要です。私は既に吹奏楽を離れている人間ですが、今後、マーラーやワーグナーの作品を聴くのと同じようなレベルで、吹奏楽作品を聴くことが出来れば、かつて吹奏楽に携わった人間としてはとても嬉しいです。このページを読んでくださった演奏家の方は、これからは是非とも、「吹奏楽の発展」ということにも目を向けて吹奏楽を楽しんでくだされば、と思います。



・ネリベル「交響的断章」 Symphonic Movement / V.Nelhybel

 では本編へ。一曲目は、チェコの作曲家ヴァーツラフ・ネリベル(1919-1996)の小品。
 ネリベル作品は、シニックで機械的な作風、大規模な管楽器だけが出せる、オルガンのような音色が魅力です。吹奏楽でしか書けない曲を書く、数少ない作曲家です。
 この曲に見られるようなベルトーン(順々に楽器が加わっていく)も吹奏楽らしい技法ですね。「2つの交響的断章」も名曲として知られます。






・シュワントナー「そして山の姿はどこにも無い」 ....and the mountain rises nowhere / J.Schwantner

 アメリカの作曲家、ジョセフ・シュワントナー(1944-)の傑作。彼はマリンバソロ曲「Velosities」も有名ですね。
 管楽器に加え、大量の打楽器、独奏ピアノ、合唱、グラスハープを使用します。吹奏楽のために書かれた作品と言うよりは、たまたま吹奏楽の編成で出来る現代音楽、と言った方が良い作品。ということは、それだけ音色が厳選されていて素晴らしい、ということでもあります。特にグラスハープを効果的に使った箇所は涙が出るほど素晴らしい(動画では06:30あたり)。高音質なニコニコ動画でお楽しみください。




・フサ「プラハ1968年のための音楽」 Music for Prague 1968 / K.Husa

 カレル・フサ(1921-)はチェコの“社会派”作曲家。この曲は1968年の「プラハの春」を題材にした作品です。爆裂音楽のコーナーでも紹介済み。簡単ですが解説もそちらにあります。
 これを挙げずに何を挙げるか、というほどの名曲。吹奏楽だの編成が何だの言うのがバカバカしくなります。ラストに向かうエネルギーは凄まじい。叫びのような管楽器。ティンパニは打楽器奏者垂涎モノ。



・長生淳「楓葉の舞」

 最後に紹介するのは日本人作曲家、長生淳の2003年の吹奏楽作品。四季を題材にした四部作「四季連祷」の最後に位置する作品です。音源が無いのが大変残念。CDはこちら
 タイトルのイメージがそのまま音となったような、聴きやすい印象派風の作品。メロディはそこはかとなく和風で、時代劇を思わせる箇所も。動機・主題の展開と言った伝統的な技法が重視されており、交響曲好きとしては好感度高し。トルヴェール・クヮルテットの編曲でも有名な長生淳らしく、木管楽器の使い方は流石に巧い。吹奏楽でしか味わえないような多様なオーケストレーションも面白い。
 とまぁ、色々書きたくなるような名曲なんですが、一言で言えば「良質の旋律素材が吹奏楽に見合った技法とオーケストレーションで着実に展開されている曲」となるでしょうか。革新的なところは無く、むしろ堅実で保守的な印象すら抱きます。こういった、着実で良質な作品がもっと作曲され、演奏されるようになればまた変わってくるんでしょうねぇ。長生淳のような実力のある、気鋭の作曲家にこそ頑張って欲しいものです。




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