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マイナークラシックの深淵


旧ソ連作曲家を中心にマイナークラシックの深淵に引きずりこみマスッ!


スヴィリドフ:「吹雪」~プーシキンの物語への音楽の挿絵~

マイナー度:★★★☆☆
名曲度:★★★★☆



 スヴィリドフ(1915-1998)はロシアの作曲家。ロシアでは有名な国民的作曲家とのことですが、日本での知名度は依然低い。声楽畑の人なら作品を知ってるかも、というレベル。
 この作品は映画音楽として作曲されたもの。ということでそもそも深みのある音楽ではないのですが、いやもー、スヴィリドフさん、聴衆のツボを良く分かってる第4曲“ロマンス”は完全に歌謡曲。「わた~しは~ いつ~まで~も~ あなただけを~ あい~して~る~」なんて歌詞を思わず口ずさんでしまうことでしょう。いやほんとに。
 曲は

1.トロイカ


2.ワルツ


3.春と秋


4.ロマンス


5.パストラール


6.軍隊行進曲


7.婚礼の儀式


8.ワルツの反復


9.冬の道

の9曲からなっています。全曲まさに映画音楽、最高のとっつき易さです。1曲目「トロイカ」のインパクトがでかい。いかにもロシア!です。鈴の音たぁ良く分かってらっしゃる。しかもこの旋律は終曲「冬の道」で回帰します。ほんと良く分かってらっしゃる。まぁなんといっても「ロマンス」ですね。甘ったるい旋律と耽美な半音階が完全に昭和のかほり。TV曲が苦し紛れにやるような「懐かしの名曲」なんて企画に紛れ込んでいても全く違和感が無い。遠く離れたロシアにここまで共感できる音楽があるとは!第6曲「軍隊行進曲」は例によって“どっかで聴いたことのある”もの。と思いきや、この楽章は抜粋されて一般的に演奏されることもあるというので、実は本当に聴いたことがあるのかも。
 迷クラシックの代表格。初めて聴いた時感動の余り爆笑しました。こんなことってない。

フェドセイエフ@モスクワ放送響

爆裂指揮者でも知られるフェドセイエフ。官能的に、劇的に、いやー良く分かってらっしゃる


ジェフスキ:「不屈の民」変奏曲

マイナー度:★☆☆☆☆
名曲度:★★★★★



 ジェフスキ(1938-)はアメリカの作曲家・ピアニスト。社会派作曲家として知られ「石油価格」なんてタイトルの曲もあります。この曲はチリの革命歌「不屈の民 El Pueblo Unido jamassera vencido!」に基づく36変奏に及ぶ大変奏曲。変奏の手法はかなり自由。かつ超絶技巧を要します。この曲をまともに演奏できるピアニストは、世界中で数えるほどでしょう。と言っても主題がかなり聴きやすいものなので“ゲンダイオンガク”特有の晦渋さはほとんどありません。JAZZYで都会的な響きもしばしば聴こえます。是非下の動画で原曲をお聴きください。
 聴きどころはやはり超絶技巧。第20、第21変奏あたりは興奮します。カデンツァも奏者によって様々で楽しめます。

「不屈の民」の歌詞、楽譜はこちらのサイトをご覧ください。



アムラン

超絶技巧と言えばこれ。速いところは本当に速い。完璧なタッチ。初めて鑑賞するならこれがベストでしょう。


ジェフスキ自作自演

自作自演盤も存在します。アムランに比べると演奏は完璧ではないですが、色づかいはやはりこちらの方が優れています。



ハンソン:主の生まれたもうた日(Dies Natalis)

マイナー度:★★★★☆
名曲度:★★★★☆


 ハワード・ハンソン(1896-1981)はアメリカの作曲家です。北欧+アメリカンな新ロマン主義の作風は実に親しみやすいもの。交響曲第2番は割りと有名です。この曲は「降誕祭」とも訳される、キリスト誕生を描いた曲。コラール素材を用いた親しみやすいもの。形式は変奏曲。 





 冒頭はティンパニによる8小節間の不安なパルス。何かを予感させる、トロンボーンによるD-durの提示。ティンパニのパルスは和声的に安定し、D-dur=神の存在を確信させる(“第九”のようにトロンボーンは神性を表す楽器としてしばしば用いられますし、D-DurはDivine,Deusなどの単語から同じく神性を表す調として用いられます)。序奏主題はD-Durをひとつひとつ階段状に登るようなコラール。単純な上行形です。これは「神の世界への上昇」を示すのでしょう。
 感動的な序章が明けると、トランペットの先導により主題が提示されます。この主題はいわゆる「調」ではなく、フリギア「旋法」に基づいています。フリギア旋法は教会旋法の一つで「天上と地上を漂う神聖な調」と定義されています。なるほど神秘的な固体感・浮遊感を感じさせます。プログラム的に見ても非常に巧い選択です。
 この主題が変容され、音楽は「怒りの日(Dies Irae)」の様相を示します。ミサ曲において神の怒りを表すのは伝統とされています(このシーンはキリストの受難とも考えられますね)。神の怒りを受け荒涼とした大地に、主題が木管楽器によるフーガ形式で芽吹きます。が、再び音楽は「テンポを増し獰猛に Allegro Feroce」変容し、萌え出た芽をすべてを無情に吹き飛ばします。人生そう甘くないのです。
 ここで音楽は瞑想的になり、神の存在について疑いを投げかけます。神は怒りしか与えない?はたして我々を救う神はいるのか?…しかし人々は信じ進みます。不安なパルス、不協和音をかき分け決然と進むと、そこはまばゆいばかりのD-Dur=神の世界。ここに来て穏やかに序奏のコラール主題が感動的に再現されます、コラール主題が天の回廊を昇ると、主題はさらに変奏され、大きな跳躍を含む幅広い賛歌になります。直後にtuttiの一撃を持つ、印象的なホルンの下行形は「神の降誕」を表します。天と地をさまようフリギア主題も、和声的な安定を得、音楽は解決します。

 14分ほどの小品なのですが、実に味わい深い曲です。序奏主題がとても美しい。
 ハンソンは教育としての吹奏楽に着目した人物でもありまして、アメリカの吹奏楽では未だにコンクール課題曲として演奏されているそうです。この曲に関してもオーケストレーションを平易にした、吹奏楽用編曲が存在します。こちらはしばしば演奏される様子。吹奏楽版はクラリネットの朴訥なコラールがより柔和な感じで響いています。これはこれで良い。


ホルスト:リグ・ヴェーダによる賛歌

マイナー度:★★★☆☆
名曲度:★★☆☆☆


 ご存知組曲「惑星」で有名なホルスト。ですが他の作品は不当に評価が低い。面白い作品がいっぱいあるんですがねぇ。この「リグ・ヴェーダ」はインドの宗教バラモン教の経典の英訳テキストを用いたオーケストラ付き合唱曲。リグ・ヴェーダたぁなんという気合の入った東洋趣味。
 全11曲で

第1部
 1.戦いの賛歌
 2.知られざる神へ
第2部
 1.ヴァルナへ(水神)
 2.アグニ(炎神)
 3.葬経(Funeral Chant)
第3部
 1.夜明けへの賛歌
 2.水への賛歌
 3.ヴェーナへの賛歌(霧を抜ける朝日)
 4.旅人への賛歌
第4部
 1.ソーマへの賛歌(香草の汁)
 2.マナスへの賛歌(死せる男の魂)

といった構成になっています。40分弱と、テーマの割には比較的小規模の作品。
 衒学的な響きは全くせず「惑星」同様イメージに富んでいてとても聴きやすい。ところどころでいかにもインド“風”な響きがして楽しいです。白眉はハープと女声合唱による第3部。神秘的な和音に陶酔、これは美しい。
 ホルストはセラピストだった継母の影響で東洋思想に強い興味を抱いていたそうです。「惑星」も占星術ですしね。他にはインドの叙事詩「ラーマーヤナ」を題材にしたオペラ「シータ」なんかがあります。東洋組曲「ベニ・モラ」、組曲「日本」なんて作品もあります。これぞマイナー作曲家。


ウィルコックス@Royal PO

金管がかなり鳴ってます。リンク先で少し試聴出来ますね。「ディオニソスへの賛歌」も爆裂で素晴らしい。


タルティーニ:悪魔のトリル

マイナー度:☆☆☆☆☆
名曲度:★★★★☆

 マイナー音楽のくくりに入れるのもどうかと思いますが、ヴァイオリンやらない人にはマイナーだと思いますので。
 タルティーニ(1692-1770)はイタリアの作曲家。ヴァイオリン音楽を数多く作曲しました。この「悪魔のトリル」は、夢の中で悪魔がヴァイオリンを弾いていた旋律を書き写したもの、という逸話が残されています。タイトルの由来にもなっているトリルは第3楽章で登場します。超絶技巧を要するトリルの嵐は、演奏者にとってまさに「悪魔のトリル」。その難易度ゆえに、実はタルティーニは指が6本あった、なんて伝説すらあります。







Vanessa Mae - The Devil's Trill
http://www.youtube.com/watch?v=nQ798THmR5Y
こんな演奏も。


アッテルベリ:ピアノ協奏曲

マイナー度:★★★★☆
名曲度:★★★★☆

 アルヴェーン、ステーンハンマル、アラン・ペッテションなんかはそれぞれ特徴ある名曲を残していますが、どうにも北欧音楽好き以外はなかなか手を出しにくい作曲家であることは否めないですね。しかし北欧音楽は、それこそ「北欧音楽」という一ジャンルを形成するほどに、豊かで魅力的な作品群であります。
 個人的に北欧音楽入門として挙げたいのがこのアッテルベリのピアノ協奏曲。ロマン主義的な華やかさに加え、静謐で艶のあるオーケストレーション、明らかに民謡からの引用と思われる歌唱的な旋律など、30分超の楽曲の中に魅力がたくさん詰まっています。
 特筆すべきは第3楽章。完膚なきまで俗謡的で、こんなクラシックはちょっとないです。ほとんどおふざけ。だがそれがいい。ラウタヴァーラを連想させる、荘厳で不思議な質量感のある第2楽章とのギャップも堪らない。第3楽章に入る瞬間嬉しくなっちゃいます。他の交響曲も後期ロマン主義・国民楽派的で聴きやすいものばかり。もっともそれゆえ存命中は評価が低かったようですが…。シベリウスがちょっと良く分からない、なんて方には大変オススメできる作曲家です。


B. Tommy Andersson (指揮), Gavleborg Symphony Orchestra (オーケストラ), Dan Franklin Smith (Piano), Christian Bergqvist (Violin)



ショスタコーヴィチ:ジャズ組曲第1番、第2番

マイナー度:★☆☆☆☆
名曲度:★★★★☆

 ショスタコというと交響曲や室内楽の硬派なイメージが専攻しますが、親しみやすいライトな音楽も残しています。とりわけこの2つの「ジャズ組曲」は、ショスタコーヴィチのイメージからかけ離れた音楽です。第2番第2曲「ワルツ」は映画「アイズ・ワイド・シャット」で用いられていますね。キューブリックの選曲はなかなか通好みです。

Suite de Jazz (D.Shostakovich) Ensemble de Salamanca
第1曲「ワルツ」、第2曲「ポルカ」、第3曲フォックストロット。終始ユーモラスな曲調。ハワイアンギターまで登場します。



Richard Yongjae O'Neill-Shostakovich : Jazz Suite No.2-Waltz
 第2番第2曲「ワルツ」。第3曲「マーチ」のタンバリンはクラシック史上最難だと個人的に吹聴しています。



ちなみにどこかで聴いたことがあるであろう「タヒチ・トロット」もショスタコーヴィチの作品。



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