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美術展メモ

鑑賞した美術展の備忘録。



ルドンの黒@Bunkamura ザ・ミュージアム






 観測史上最暑の40.9度を記録した8月16日、喉が焦げ付く熱さに眩暈を感じつつ小一時間迷った果てにようやく到着Bunkamura。渋谷と地理は苦手です。
 ルドンと言うと「キュプロクス」のような極彩色の絵画作品がまず頭に浮かぶかも知れませんが、この展覧会ではリトグラフ、木炭画による“黒”い作品が中心です。展覧会終盤では油彩、パステルの作品も数点展示され実に心憎い。展示数は200点。休憩スポットではルドンの描いた怪物たちのCGアニメーションも上映されており、なかなか充実した展覧会でした。
 解説付きで作品を観ていて特に感じたことは、ルドンは特異な画家ではなく、基本的に時代の流れに即した作品を残していた、ということです。彼の“黒”や怪物には、普仏戦争の敗戦、地球外生命体への興味、神智学・オカルティズムの流行などの時代的な要素が反映されているそうです。「死」「生」「精神」「幻想」といった主題は、象徴主義・世紀末芸術に良く見られる要素です。私の大好きな、同じく「死と生」を題材にしたマーラーの交響曲第9番を連想させるような作品もちらほらとありました。彼の作品は一見特異に見えますが、取り扱っている主題は、当時に一般的なもののようです。
 では何が彼を特異ならしめているかと言えば、それは彼の想像力と独自の精神世界から拠出された、原風景とも言うべき心理的なイメージだと思います。ルドンの描く黒い怪物は、勿論現実世界には存在しない怪物なんですが、何故か懐かしさを感じさせるものなんですね。絶対に見たことがないのに、どこかで見たことがある。あの怪物たちは、子供の頃に想像した世界の住人とも言える性格のものでしょう。子供の世界を描いた「となりのトトロ」に「まっくろくろすけ」という怪物が存在することは興味深いです。「非現実的だけど懐かしい」はシュルレアリスム絵画に良くある感触です。ルドンの怪物は、デ・キリコの車輪を転がす女の子や、イヴ・タンギーの胎児の頃に見た世界へと進化していくのかも知れません。
 今度は「ルドンの極彩色」とでも称して展覧会を開いて欲しいところ。あちらも魅力的です。当サイトにルドン画像集があるので是非ご覧ください。

 売店では魅力的なルドングッズがたくさん売られていました。ポスター、ファイル、ポストカードなどは良いとして、笑ったのはルドンの絵をちりばめた帽子。センス良いんだか悪いんだかわかりゃしない。


2007年8月16日(木)




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