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美術展メモ

鑑賞した美術展の備忘録。



ヤン&エヴァ シュヴァンクマイエル展 ~アリス、あるいは快楽原則~@ラフォーレ原宿






 シュヴァンクマイエル夫妻展、何の因果かファッションの最先端・原宿での開催。奇抜な格好をした若者たちに終始度肝を抜かれっぱなし。度肝がいくらあっても足りない。あれ自体ちょっとしたシュルレアリスムですね。
 一般800円、学生600円、ファッションビルの一角での開催、とあって小規模な展覧会だと思っていたらこれが意外とボリュームが多い。会場は「博物誌」「アルチンボルド/判じ絵」「錬金術(秘儀)」「触覚主義」「夢とエロティスム(快楽原則)」「操り人形」「物語」「アリス」「資料」の9コーナーから成り立っており、総数200点に及ぶ作品が展示されていました。
 シュヴァンクマイエル夫妻は個人的にも大好きな芸術家なので、文句なしに楽しむことが出来ました。特に今回は、展覧会のタイトルに「ヤン&エヴァ」とあるように、妻であるエヴァの作品が多く展示されていた点がとても良い。エヴァは「遅れてきたシュルレアリスト」として世間的な評価は低いですが、独特のタッチで描かれる正統派シュルレアリスム絵画は色褪せることのない鮮烈な魅力を持っています。特に「目」や「手」のイメージがグロテスクに氾濫する、メディウム・ドローイング(自動筆記)の諸作は圧倒的で、エヴァの芸術家としての恐るべき源泉を垣間見ることが出来ました。ドロテア・タニングを彷彿とさせる女性の持つ攻撃的な禍々しさ、ジョージア・オキーフのような女性的な柔らかさとエロティスムが、シュルレアリスティックな語法に乗せられ実に不気味な混淆を見せています。

 エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァー「虚栄の輪」

 ドロテア・タニング「アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク」

 ジョージア・オキーフ「音楽―ピンクと青」


 また、映画「オテサーネク」で実際に使われた人形や、「快楽共犯者」で使われた巨大わら人形、「ファウスト」で使われた舞台装置などの展示は、彼らの映画作品のファンである私には非常に感動的でした。オテサーネクは頭の中は空洞になっていたんですねぇ。
 やはりシュヴァンクマイエル夫妻の作品はとても面白い。シュルレアリスムという手法は既に美術史的には役目を終え、古典となっていますが、現代でも十分意義のある手法でしょう。というのはシュルレアリスムが理性で捉えられない超現実を、「無意識」「意識」「夢」「原風景」「生命の神秘」「運命」「感情」などなどの、現在の科学でも未解決の事項を描き出す手法であるからです。これほどまでに高度に科学が発展しても、理性で捉えられない世界=未解決の事項は無数に存在します。それらの未解決事項にアクセスする手段が芸術であり、絵画では特にシュルレアリスムなのでしょう。理性で捉えられない世界には無尽蔵の魅力が詰まっています。芸術運動として数十年しか続かなかったシュルレアリスムが、シュルレアリスムそれ自体の持つ「超現実=未知へアクセスする能力」を存分に発揮したとはとても思えません。人知の及ばぬ事項が存在する限り、それを描き出すことの出来るシュルレアリスムは続けられていくべきでしょう。ですから「最後のシュルレアリスト」などと言わずに、ヤン・シュヴァンクマイエルには是非とも長生きしてもらって、たくさんの「超現実への道しるべ」を残して欲しいと思います(そして2005年に急逝してしまったエヴァに感謝を…)。


2007年9月5日(水)




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