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ハンス・ロット:交響曲ホ長調


Hans Rott(1858-1884)

 マーラーの友人、ハンス・ロットの残した唯一の交響曲。20歳の時の作品。ブラームスを崇拝していたハンス・ロットは、この作品でブラームスの第1番にオマージュを捧げています。しかし、当のブラームスから「音楽を止めたほうが良い」と手痛く批判され、そのショックから精神病になり、精神病院にて結核で亡くなってしまいました。25歳でした。
 マーラーとかなり親しかっただけあって、メロディの雰囲気、オーケストレーションなど随所にマーラーと似通った点が見られて非常に面白い。作曲年次から言って(マーラーが第1番を書いたのは1888年)、マーラーがハンス・ロットの影響を受けていると考えられます。なおマーラーはこのハンス・ロットの交響曲を研究し、自身の第1番を完成させたという話もあります。スピーカーの前に座しつつ思わず突っ込みを入れたくなるほど“マーラー臭い”部分が多々あり、マーレリアンには堪らない名曲です。 



第1楽章

 ソナタ形式。爽やかな雰囲気の中、トランペットによって第一主題が歌われる。丸味のある優しげな旋律。マーラーの第7番の終楽章のロンド主題と似ています。ティンパニのトレモロに続いて木管の第二主題。実にロマンティックな夜の音楽、マーラーよろしく、民族音楽の香りを漂わせます。錯綜した展開部を抜けると、ピッツィカートに乗せて第一主題が歌われ、再現部へ。高らかに第一主題が吼えたける。主題が一瞬崩れそうになる瞬間なんて、しつこいようですがマーラー的。終結はブルックナーっぽい歓喜で終わります。


第2楽章

 アダージョ楽章。弦によって奏でられるブラームス的な主題。前楽章の第一主題と関連しているようです。旋律線は切れ目無く展開される。途中からマーラーの第3番第6楽章っぽくなります。不協和音の使い方や自省的なオーケストレーションがマーラーそっくり。悲劇的な雰囲気が落ち着くと、救いのある第一主題が静かに回帰します。完成度高し。


第3楽章

 古めかしいヘンデル風のトランペット序奏に続き、マーラーの第1番第2楽章そっくりの主題が現われます。繰り返しますが作曲年次から鑑みて、これは断じてハンス・ロットが真似したのではなく、マーラーが第1番の中で引用したものと捉えるべきです。
 中間部テンポを落とした瞑想的なもの。三連符のさざめきの上に、様々な動機やメロディが再現されます。マーラーの第3番第3楽章のポストホルンソロを思わせるトランペット、カッコー動機を思わせる第一主題の部分的な再現、トライアングルの孤独に煌めくオルゲンプンクトなど非常に魅力に満ちた箇所。
ティンパニロールが爆発すると第一主題があたりを伺うように再現されます。金管楽器が大爆裂し、病的な高揚感を持った動機が連打される。その動機は三連符に変容し、何かを予感させるように加速する。が、何事も無かったかのように第1楽章第一主題が経過句としてパロディ化され、道化のワルツへ流れ込んでしまう。ワルツが落ち着くと低弦で始まるフーガ。一見バロック風でありながらも、装飾音を伴うアイロニックなもの。フーガは消化不良のまま中断されワルツの中へ溶け込まれる。ヴァイオリンが高揚を煽ると、第一主題が“今度こそ”華やかに再現され一応の大団円を築き、突然の終結。…と思わせながらも曲は続いており、最後に第一主題が想い出のように再現されると、“今度こそ”静かに終わる。音楽的裏切り。
 主題だけでなく、主題のパロディ化、分裂症的な展開、異質な要素のポリフォニー、などあらゆる点でマーラーそっくり。若きマーラーがゴーストライターとして書いたのでは無いかと思わせるほど。
 トライアングルが非常に印象的。この交響曲はトライアングル奏者が大活躍です、こんなにトライアングルを使う曲も珍しい。トライアングル=明るいものに固執するあたりに、精神的な薄弱さを読み取るのは行き過ぎでしょうか。


第4楽章

 死出の旅への葬送序曲。ホルンとオーボエの“呼び声”はマーラーの第7番第2楽章を彷彿とさせます。呼び声が重ねられ、ロマンティックな夜の森の雰囲気を帯びる。民族音楽の香りが強い歌謡的な主題です。溶けるような主題が木管に出ると三連符を跳躍力に、次第に高揚し爆発する。
 オーボエと弦のレチタティーヴォに続いて、第1楽章を匂わせる、透明な木管の三連符が現われる。直後の主題はブラームスの第1番の終楽章の主題をオマージュしたもの。「第九」「ブラ1」同様、楽器を増しトゥッティで主題が展開されていく。階段のようなフーガが展開され、コラールが高らかに歌われる。ここら辺は「第九」やブルックナーの影響を感じます。第1楽章の第一主題を垣間見せながら、フーガが壮大に、自由に展開される。フーガの終盤では金管楽器が痛いほどに、これでもかと執拗に音をぶつける。勝利を予感させる経過句を挟み、迷いを感じながらも第1楽章の第一主題が慎重に仄めかされる。噴水のようなヴァイオリンの伴奏に乗せてブラームス主題が勝利を歌う。第1楽章の第一主題が、ブラームス主題と融合するように変容されると音楽はさらに膨張し、高次元の爆発へ。音圧がすさまじい。エネルギー満たしたまま徐々に静かになり、最後の和音を確かに奏で、曲を閉じる。


 大変な名曲なのですが、発掘されたのが最近(初演は1984年)だけあって、かなり評価が遅れているように感じます。日本での初演はなんと2004年。うーん名曲って探せばあるものです。これだけの完成度だけに、夭折してしまったのが本当に惜しい。溢れる才能を鑑みるに、マーラーに並ぶ交響曲作家になってもおかしくなかった人材です。ブラームスはひどいことをしてくれたもんです。


参考リンク:
 ・Wikipedia - 交響曲(ロット)
 ・Wikipedia - ハンス・ロット
 ・Hans Rott - The Founder Of The New Symphony



お勧めのディスク


デイヴィス@ウィーン放送響
★★★★☆

貴重な「田園前奏曲」を含む盤。


ヴァイグル@ミュンヘン放送響
★★★★☆

「管弦楽のための序曲」「ユリウス・カエサルへの序曲」を含みます。



追加予定。


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